無の日々

キモオタヒキニート生活

『紙の月』

宮沢りえが「一緒に行きますか?」とこちらに問いかけたとき、私の体は少しも画面に近づかなかった。枠の中では小林聡美が同じように目を瞠って立ち竦んでいる。もし、運命の女(もしくは男)が私の前に突如現れたらどうなるだろう。窓枠に手をかけ、私に手を差し伸べる女(もしくは男)。一緒に行こうとその人は言う。私は声が出せるだろうか。ましてその手を取ることなど、果たして出来るだろうか。 私の足はいつもガムを素足で踏んでいるようにその場からなかなか離れない。私は怠慢で、臆病で、愚かである。それなのにいつも何かを探している。誰かに変えられたがっている。ある日突然ヒーローになったり、何かの才能が目覚めることをずっと待っている。しかし変化などそうそう訪れはしない。訪れても、私は見てみぬふりをして足踏みをするのだろう。誰か来て、とオウムのように繰り返しながら。 宮沢りえが「一緒に行きますか?」とこちらに問いかけてくる。私は動けない。彼女のように素足で走れない。髪を振り乱し、夢のように軽やかな足取りで走っていく宮沢りえのつむじを、窓の内側からじっと見つめ続ける。